X線小角散乱 / 広角回折装置
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装置概要
X線小角散乱装置
![saxs[1].gif](/application/files/9115/2807/3586/saxs1.gif)
機種 | Anton Paar GmbH 製X 線小角散乱装置 (SAXSess) |
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設置場所 | 駿河台校舎2号館 地下1階 209B号室 |
設置年度 | 平成16年度 |
性能 | 測定領域2θ : 0.108~40.0° (SWAXS), 小角分解能: 0.077 nm-1, 対象となる領域(Bragg): 0.24~81.6 nm のサイズ (SWAXS) |
検出器 | イメージングプレート(IP)-SAXS 用 (66×62 mm), SWAXS 用 (66×200 mm)Pixel Size: 42.3×42.3 μm2 |
測定温度制御範囲 | -30~120°C |
X線広角回折装置
![x_pert[1].gif](/application/files/5715/2807/3874/x_pert1.gif)
機種 | PANalytical 製全自動多目的X 線回折装置(X’Pert PRO MPD) |
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附属装置 | 回転スピナー機構,および透過測定用モジュールを常備している. |
設置場所 | 駿河台校舎2号館 地下1階 209B号室 |
設置年度 | 平成16年度 |
性能 | ・非破壊測定のため,何回でも測定ができる. ・測定は大気中で行う. ・液体(揮発性液体は不可),粉体,フィルムetc が測定の対象となる. (*温度可変システムがないため,相転移など温度に対して依存性があるものについては検討できない.) |
原理と概要
X線小角散乱装置
物質にX線を照射すると,物質を構成する原子や分子の電子密度を反映してX 線が散乱される.特に,物質を透過したX 線の近傍つまり小角度領域,一般的には散乱角2θ <10°以内に現れる散乱・回折を総称して小角散乱(Small-angle Scattering)という.X線を用いた小角散乱測定では,粘土,アロイ・ブレンド・ナノコンポジットなどに代表される高分子材料,タンパク質をはじめとする生体物質などの長周期構造やミセルやコロイドなどの粒子状構造,高分子溶液など数nm~数百nm のサイズを対象とした種々の測定に威力を発揮する.
粒子系における一本の散乱曲線から,一般に以下の情報を得ることができる.
- 情報I.粒子の大きさ(平均の大きさ,回転半径Rg)→Guinier 領域(小角領域)
- 情報II.粒子の形(球,楕円体,円柱状など)
- 情報III.粒子表面(界面)の構造(平滑度など)→Porod 領域
これらの情報は,その粒子の大きさと以下に述べる散乱波数ベクトル; q との相対的な兼ね合いにより,散乱曲線の異なる部分に反映される.すなわち,顕微鏡観察をイメージすると試料アプローチへのレンズ倍率を変えて観察していると考えると良い.各情報の境目は,ものの大きさや形状に依存する.常にこのことを意識して解析法を適用する必要がある.極端な場合,情報Iの領域が既にダイレクトの影響で観測できず,情報IIから対応するケースもある.
![fig01[1].gif](/application/files/6415/2807/5036/fig011.gif)
今,ここでFig.1 に示すような2 電子系モデルを考える.X 線の入射方向のベクトルをs0,散乱方向のベクトルをs1とする.ただし,|s0|=|s1|=2π/λである.このとき,散乱波数ベクトル; q は,
![fig02[1].gif](/application/files/2915/2807/5460/fig021.gif)
と定義することができるので,散乱角; θを用いて表現し直すと,すなわち,
![fig03[1].gif](/application/files/8315/2807/5765/fig031.gif)
となる.このとき,光路差は,
![fig04[1].gif](/application/files/7815/2807/5801/fig041.gif)
であるので,2電子からのX線の振幅は,
![fig05[1].gif](/application/files/9215/2807/5853/fig051.gif)
と表現することができ,実際の物質の場合は,多電子系であり,この振幅を重ね合わせたものが実際に観測される波の振幅となる.真空中での対象となる物質の電子密度をρ(r)とすると,その物質による散乱振幅は,
![fig06[1].gif](/application/files/2415/2807/5908/fig061.gif)
と表すことができ,振幅A(q)からなる散乱強度I(q)は,
![fig07[1].gif](/application/files/2315/2807/6137/fig071.gif)
より得ることができる.したがって,
![fig08[1].gif](/application/files/7015/2807/6407/fig081.gif)
となる.ここで,
![fig10[1].gif](/application/files/4815/2807/6760/fig101.gif)
ただし,
![fig12[1].gif](/application/files/3915/2807/6912/fig121.gif)
式(2)の関係,すなわち,電子密度差の2 乗に比例し散乱強度が増加する関係であることがわかる.しかしながら,r,ρ(r)は,原子の熱運動などの影響を受け,このため,外的因子の影響を受けない不変的な物理量(Invariant): Q
![fig13[1].gif](/application/files/6615/2807/6960/fig131.gif)
を導入することでより細かな情報が得られる.電子密度差が大きく異なる2 成分系では,散乱体の界面の情報なども得ることができる.
X線広角回折装置
材料は,原子や分子により構成されており,材料内部の形態,構造を知ることは,材料物性を検討する上で非常に重要 な役割を担う.材料内部の原子や分子は,規則正しく整列するもの,ランダムで不規則に存在するもの,あるいは,その中間的な状態で存在するものなど様々な形態をとる.一般に 原子や分子が規則正しく整列した材料を「結晶性材料」,対して不規則な材料を「非晶性材料」という.結晶性材料としては,天然鉱物,金属材料などが挙げられ,対して非晶性材料としては,高分子材料をはじめとする有機/無機複合材料や ガラス等が挙げられる.材料の形態は様々であるが,材料を 構成する原子や分子は,概ね0.1~0.3 nm 位の距離をおいて 隣り合っており,原子間距離と同程度の波長をもつ単色X線を入射すると各原子は散乱体となってX線を散乱する.その各原子の配置と散乱角から生じる波の行路差によって散乱線 は干渉するため,その波形を観察することで,構造解析の糸口がつかめる.
今,各散乱体に対して散乱強度を記録すると,その物質の原子や分子の配列特有の散乱曲線が得られる.このような散乱強度曲線には,「結晶性」と「非晶質」では顕著な相違がある.結晶性では,Fig.2 のような鋭い線スペクトルを示し,非晶性では,緩やかな波形のFig.3の散乱曲線を示す.この両者の相違から結晶性および非晶性を区別することができ,中間的な状態で存在するものでは,物質中の結晶部分の割合(結晶化度)を求めることもできる.
原子や分子が3次元的に整列することは,物質空間内でそれら構成原子の組によって構成される単位模様を形成していることを意味する.この単位模様の等価な位置に格子点を定めると3次元格子が得られる.これを点格子という.この格子の3方向の格子点間を結ぶ3つのベクトルa,b,c をそれぞれ格子の基本ベクトルといい,それぞれの長さa0,b0,c0 とお互いの角度α,β,γを格子定数という.点格子の点の並びは様々な方向に平面を作っていることがわかる.これは,格子面または網状の平面になっていることからしばしば網平面と呼ばれる.
![fig15[1].gif](/application/files/3615/2807/7971/fig151.gif)
結晶内のある方向の格子面にX 線が入射したとする(Fig.4).入射方向とこの面とのなす角θとの面に垂直な方向の面間隔d(d-spacing という)および入射X 線の波長λとの間に次の条件が満たされた時,強い反射(回折)が起こる.2d sinθ = nλ (1)この関係をブラッグの条件という.
各格子面の回折強度は,その面上に並んだ原子密度,すなわち電子密度の2乗に比例して強くなる.したがって,回折線の現れる2θ角とその強度の組合せは,物質ごとに異なった値を示す.このことを応用して,未知試料の同定分析は,未知試料の回折図形を測定し,面間隔dと回折線の強度I の組合せをICDD(International Centre for Diffraction Data) に対応した本装置解析用ソフト(X’ Pert High Score) 中の標準データと比較することで同定することができる.また,ある化合物の含有量は,対応する回折線の積分強度から算出でき,回折線の形状を解析することで結晶の欠陥 (性質や密度など) を明らかにすることもできる.その他,Scherrer の関係式 (2)を用いることで結晶子Dの大きさを知ることも可能である.
D = Kλ β ′cosθ (2)
ここで,K はScherrer 定数といい,一般に0.9 である.β’は結晶子の大きさに基づく回折ピークの拡がりである.
試料の準備
X線小角散乱装置
液体試料(Quartz Capillaries*使用): 0.1 mL (*推奨: 内径1.0 mm,肉厚0.01 mm)
フィルム試料: 5×20 mm,厚み2 mm
X線広角回折装置
- 試料ホルダーは,液体・粉体兼用とフィルム用の2 種類が常備されている.
- 測定利用者は,各自測定試料,薬サジ,ウィルスチェック済みUSB メモリーなどのデータ記録媒体(データはCSV 形式で出力が可能)を持参して下さい.
- 最適試料量は,液体および粉体などは,試料設置部(20 mm×15 mm,深さ: 0.3 mm)を充填できる量を推奨する.フィルム試料は,試料部(20 mm×15 mm)を覆うことのできる広さを推奨する.
フィルム試料の厚みは,極力薄いものを推奨し,上限厚みとして100~200 μm 程度を推奨する.
測定
1. | 測定はライセンス所得者およびライセンス所得者の立会いで行って下さい. |
2. | ライセンス所得者以外のみでの使用は認めません. |
3. | 不明な点は装置担当者にお尋ね下さい. |
4. | 装置担当者以外に,装置の管理・維持・点検を行える装置管理スタッフがおり,技術的サポートを提供しております.ご相談下さい. |
申し込み
1. | 材料創造研究センターにある月別予約表で確認し,予約(研究室名と利用者名)を記入して下さい.また,キャンセルする場合には,わかりしだい消して下さい.なお,利用予定日に不慮のトラブル等により装置利用ができない場合もあります. |
2. | 測定(解析のみも含む)使用開始および終了時刻など必要事項を専用ノートに記入して下さい. |
3. | 使用時間 |
- 小角散乱(SAXSess)装置:ポイントおよびラインフォーカス系いずれも4 時間を1 単位
- 広角回折(X’Pert PRO MPD)装置:1 時間を1 単位
4. | SAXSess 使用予定者で,フォーカス系を変更したい場合は,予約表にご記入頂く前に装置担当者にご相談下さい. |
使用方法
1. | 測定に必要な器具,溶剤などは利用者が各自準備して下さい. |
2. | 使用開始前に計測機器および附属装置の部品を点検してから使用して下さい.また,終了後は,使用開始前の状態に戻すようにして下さい. |
3. | 試料交換の際などには,X 線シャッターランプの消灯を確認して下さい.点灯時は、扉などオートロックが掛かりますので無理に開閉などを行おうとすると装置の破損,故障の原因になります. |
4. | 用紙などの消耗品が残り少ない場合には装置担当者に報告して下さい. |
5. | 装置の不調や故障につきましては,装置担当者の指示を仰ぐとともに,文書にて報告して下さい.また,緊急時場合のみ,口頭で装置担当者に報告後,後日文書を提出しても構いません. |
6. | 測定室利用中は,ライセンサーが責任を持って同室の管理をして下さい.特に,土足での入室,室内での飲食は厳禁です.また,ゴミは廊下のゴミ箱に捨てて下さい. |
7. | 測定データは,測定者が責任を持って管理して下さい。データ紛失,損失につきましては,装置担当者および分析センターでは一切責任を負いません. |
8. | 測定終了後は,装置使用報告書に必要事項を記入の上,当センターに速やかに提出して下さい.装置使用報告書は当センターにあります.また,材料創造研究センターホームページからダウンロードできます. |